残置物の撤去・所有権や支払い義務について解説
前の入居者が残していった残置物。
「処分したいけど勝手に捨ててもいいの?」
「撤去の仕方が分からない」
「残置物の処分費用は誰が払うの?」
と迷ってしまいますよね。
この記事では、残置物の所有権や処分費用の義務について説明します。
この記事で分かること
・残置物とは?
・残置物の所有権について
・処分費用は誰が負担するのか
【監修】遺品整理士協会認定 遺品整理士
片山 万紀子
祖父の遺品整理をきっかけに遺品整理や不用品回収に興味を持ち、遺品整理士協会認定・遺品整理士の資格を取得。ReLIFE(リライフ)のディレクターをする傍ら、年間600件以上の遺品整理に携わる。遺品整理を通して「ありがとう」という言葉をいただけること仕事のやりがいとしています。
残置物について
残置物とは一体何なのか、その定義や誰が撤去するべきかについて説明していきます。
残置物とは
残置物(ざんちぶつ)とは、「前の入居者が部屋に残していった私物」です。本来は、入居者が退去の際に残った物を処分しなければなりませんが、撤去に費用がかかるために放置されている場合があります。
似た言葉で「残留物」がありますが、明確な区別はありません。残置物を設備と間違えられることもありますが、残置物は設備とは異なります。設備は貸主が契約者に提供しているもので、残置物は前の入居者が後から取り付けたものというように残置物と設備では扱われ方が違います。
前の入居者が貸主の承諾を得て物を残していた場合、それらは貸主が所有する「設備」として扱われることになります。
チェックすべき残置物
残置物としてよくあるものの例です。部屋の明け渡し時や下見の時にはこれらのものが残置物として該当するか確認しましょう。
・家具(タンス、ソファ)
・家電(洗濯機、冷蔵庫、電子レンジ)
・付帯設備(エアコン、照明器具など)
事務所の場合はオフィス用品、飲食店なら厨房設備が残置物になる場合があります。
入居者の立場であるなら、特にエアコンに注意します。エアコンが設備ではなく残置物だったとあとから分かるケースもあるため、下見の時に残置物がどうか確認しておくことが大切です。
2000年以前に製造されたエアコンは、消費電力が多く電気代が高くつくという難点があります。新しいエアコンに買い替えたい場合は、貸主に申し出る必要があります。
入居者は勝手に処分してはいけない
自分が入居者として部屋を借りると、前の入居者の残置物が残っていることがあります。この時は前の入居者の残置物を勝手に処分してはいけません。勝手に処分をすると器物損壊罪となり損害賠償が発生することもあるからです。
入居前に説明を受けていない残置物を発見した場合は、勝手に処分せずに貸主もしくは管理会社に確認してみましょう。
貸主もしくは管理会社が入居前に残置物の説明をする義務がありますが、説明がなされなかった場合、貸主(大家)も残置物について把握していないことがあります。
残置物を見つけたら、どのような対応をすれば良いか管理会社や貸主に相談することが大切です。
残置物の所有権
残置物の所有権は誰が持つことになるのか、万が一故障した場合の修繕義務は誰が負うことになるかについて解説していきます。
本来は前の入居者が撤去
賃貸借物件の借主は退去する際に自分の物を撤去する「原状回復義務」を負います。部屋を明け渡しの時は何も無い状態にする必要があり、物を残したまま退去しても明け渡したことにはなりません。不用品を撤去するために必要な費用は借主が負担します。
賃貸借契約終了後でも、貸主は借主に残置物を処分するように求めることができます。もしも残置物が不要であるなら借主に連絡してみましょう。残置物を処分したいが借主と連絡が取れない場合には、裁判所への申し立てなどといった手続きが必要になります。残置物撤去のための費用は、貸主が前の借主に対して請求できる権利を持っています。
新しく入居者が入れば貸主に
残置物は前の入居者から譲り受ければ貸主の所有物となります。
前の入居者と連絡が付かないまま残置物を残したまま新しい入居者に部屋を貸すと、所有権は貸主に移ります。前の残置物をそのままにしておくということは、貸主が不要ではないと判断し引き受けたとみなされるからです。
所有権が移ると残置物の原状回復義務も貸主が行う必要があります。
修繕義務についても、契約書上に残置物関連について何も記載されていない場合は原則貸主が修繕を行わなければなりません。
入居人が孤独死した場合
1人暮らしの入居者が死亡した後も賃貸借契約は継続されます。賃借権は相続財産のため、相続人に相続されます。
孤独死した入居者の私物を勝手に処分して新しい入居者を募集することはできません。貸主は、まず相続人に相続するかどうかの連絡を取る必要があります。相続されたら撤去費用や家賃の請求が可能です。
ただし、孤独死の場合は相続人が疎遠である場合が多く、相続人の対応までに時間がかかります。長期間待ち続けなければならないため賃貸経営に影響が出てしまうのが現実です。
残置物の修繕義務と対策
残置物の修繕義務は誰が負うのか、貸主は入居前にどのような対策をとれば良いのかについて説明していきます。
修繕義務は誰が負うのか
修繕義務は貸主もしくは借主が負わなければなりません。その判断として重要となるのは、契約書や重要事項説明書に残置物の修理についての記載があるかどうかです。
契約書や重要事項説明書に残置物について書かれていれば、修繕義務は借主が負います。残置物の説明がなければ貸主の負担になります。残置物の修繕義務が借主になることは一般的なことではなく、特別な契約で決められます。
契約書に「残置物」ではなく「付帯設備」として書かれているだけの場合、貸主側が修理を負担しなければなりません。
契約前に残置物が壊れたら借主の責任になることを説明して、承認されると修繕義務は借主のものになります。
【貸主向け】対策
残置物の修繕や撤去費用などが全て貸主負担になると、あまりにも負担が大きくなるとのことで借主との間に特別な契約があります。
まず必要なのは、何か残置物であるか明確に提示することです。契約書や重要事項説明書に明記します。
残置物が故障したら、借主が費用負担することを理解してもらった上で契約してもらうことが大切です。
その他、明記することは以下の通りです。
・貸主は、残置物の動作や性能について責任を負わないこと
・貸主は、残置物が故障・不具合を起こしても、修理や交換、撤去の責任を負わないこと
・故障した場合は借主が自己負担で修繕する義務があること
残置物を撤去する方法
残置物を撤去したいなら、業者に依頼することが最も手間や時間を節約できる方法です。
業者への依頼手順や残置物撤去の費用についてお伝えします。
不用品回収業者に依頼
不用品回収業者に依頼をするのが最もスムーズで確実な方法です。家具や家電をはじめ、小物類なども回収してもらえます。処分費用はかかりますが、自分で処分する時よりも手間も時間も節約できます。
マンションやアパートの場合は、重い家具も階段からおろす必要があります。自分1人で行おうとすると怪我をする可能性が生じます。こうした作業も不用品回収業者に任せることができるので、力作業が不安な方も安心して処分可能です。
引越しシーズンの3月~4月ごろは申し込みが殺到します。繁忙期は1か月前には予約しておくことがおすすめです。
費用
処分費用は基本料金の3,000円と品物の処分費用が発生します。
品物と処分費用
品目 | 処分費用 |
エアコン(取り外し含む) | 10,000円 |
冷蔵庫 | 5,000円 |
ガスコンロ | 2,000円 |
照明 | 1,000円 |
カーテン | 1,000円 |
1回の回収につき1回分の基本料金が発生するため、一度にまとめて回収を依頼した方が効率的です。
残置物が多い場合はトラックパックを案内されることがあります。軽トラックパックと2トントラックパックがあり、それぞれの料金は以下の通りです。
トラックパック料金
軽トラックパック | 30,000円~ |
2トントラックパック | 80,000円~ |
申し込み手順
1. 問い合わせ
電話もしくはメールで問い合わせが可能です。電話はスムーズに回収の話ができ、メールは回収物の写真が送れます。自分に合った方法で問い合わせをしましょう。
2. 見積りと予約
回収希望の品物を伝えると、電話もしくはメールで見積額を案内されます。品物の数によっては現地に直接見積りに行く場合もあります。2-3社ほど相見積もりを取っておくと安心です。
見積り額に納得できれば、そのまま予約を取ります。
3. 回収当日
予約をした日時に業者が来るのを待ちます。立ち会いがなくても回収してもらうことも出来ますが、回収漏れがあると再度依頼をしなければならず余分な手間と費用がかかります。
依頼した物が全て回収できたか確認するためには回収現場に立ち会うと安心です。
悪徳業者には注意
不用品回収業者を選ぶ時には悪徳業者を避けることが必要です。
悪徳業者とは、不当な処分費用を請求したり回収したものを不法投棄する業者のことを言います。不法投棄されていた場合、業者だけではなく依頼者も罪の責任を負うことがあります。
対策としては、2-3社ほどの業者に見積を依頼することです。相見積もりをしても嫌がられることはありません。
料金を比較できるので、自分が満足できる金額を提示した業者を選べます。あまりにも見積時の料金が低い場合は、回収当日になって料金を追加されることもあるため注意が必要です。
許可を持っている業者かどうか確認することも大切です。
「古物商許可」もしくは「一般廃棄物収集運搬許可」を所有しているまたは提携している業者を選ぶと悪徳業者を避けられます。
【入居者向け】原状回復について
入居者が建物を退去する時には、借主が「原状回復の義務」を負わなければなりません。
どこまで片づけるべきか、掃除の仕方についても解説していきます。
退去時はどこまで片づけるか
建物を退去する時には、入居者は「原状回復の義務」として入居した直後の状態に戻さなければなりません。
通常通りの生活で発生してしまう汚れや傷などは原則として貸主が修繕を負担します。国土交通省のガイドラインによると、原状回復とは入居者が借りた当時の状態に戻すことではないと明確化されています。
経年劣化など生活する上で避けられないものは借主が負担する必要はありませんが、借主の不注意で発生した汚れは綺麗にする必要があります。
目安としては以下の通りです。
<床>
貸主負担:家具設置によるへこみや設置あと
借主負担:絵具などの汚れ
<壁>
貸主負担:日照りや建物構造上による雨もりが原因の変色
借主負担:手入れ不足によるカビ
浴室のカビや洗面所の水垢、キッチンの油汚れなど、自分の手で掃除する部分は掃除しておくことが一般的です。
掃除の仕方
場所ごとの掃除する箇所や気を付けるべき場所について説明します。
<リビング>
フローリング、壁、窓の掃除を重点的に行います。
フローリングは掃除機をかけたあとに雑巾で水拭きします。重要スプレーを使うとより綺麗になります。雑巾の代わりにウェットタイプのペーパーモップを使うこともおすすめです。
壁についた黒ずみやスス汚れは、固く絞った雑巾で水拭きした後、乾いた雑巾で拭き取るだけでも綺麗になります。
窓はガラス部分だけではなくサッシ部分も忘れずに掃除をします。
<キッチン>
シンク、コンロ、壁、換気扇を確認しましょう。
シンクの掃除は食器用洗剤をつけて食器洗いのようにスポンジでこするだけで完了します。細かい部分は歯ブラシなどを使って汚れを落としましょう。
料理をすると油や調味料が壁につくことがあります。壁やコンロなどについた油汚れは重曹スプレーを使うと綺麗になります。
<浴室・洗面所>
カビや水垢がないか確認します。市販のカビ用洗剤を使う場合はマスクやゴム手袋の着用する、換気扇をつけたまま作業する、など安全に配慮して掃除を行いましょう。
まとめ
・残置物とは、前の入居者が部屋に残していった私物のこと。
・残置物と設備には違いがある
残置物=入居が後から取り付けたもの
設備=貸主が借主に提供しているもの
・本来は、「原状回復義務」として借主が残置物を撤去する必要がある。
・残置物を前の入居者から譲り受けた場合は、所有権は貸主となる。
・前の入居者と連絡がとれないまま新しい入居者に部屋を貸した場合も、所有権は貸主に移る。
・契約前に、貸主と借主との間で特約が交わされたら、修繕義務等は借主が負う。